− 北陸醤油と南蛮文化の関連 −
 
(ア)味覚の加賀スタイル
 甘口の醤油はなくてならない地元の味です。
 甘口の醤油で、富山湾でとれたばかりの新鮮なおさかなのお刺身をいただくと「この海の幸こそ地元の宝」とつくづく思います。
 今の季節だとやはり鰤ですね。冬の初め「鰤おこし」とよばれる大きな雷が曇天の空にとどろいて天候がくずれると鰤の群れが富山湾に周り込みます。鰤の水揚げに水産市場は賑わい、富山の家庭の食卓には寒鰤が並びます。新鮮でよく脂ののった寒鰤のお刺身はお醤油をはじいてしまうほど。「越中鰤」のブランドを築くほど富山湾でとれた寒鰤は全国的に有名です。この寒鰤の持つ風味を最大限に引き出してくれるのが地元の甘口醤油とよく効いたわさびです。
 また、青碧色の卵と桜色の対比が目に鮮やかな甘海老、こりこり感と独特の甘味がおいしいばい貝、富山湾の宝石とうたわれる白海老、ひらめ、いか、などのお刺身に甘口醤油は欠かせません。きときとの魚のお刺身に甘口醤油、そしてすっきり辛口の地酒。富山県人の醍醐味です。
 それから、高岡では「いべす(えびす)」福光では「ゆうべし(ゆべし)」金沢で「べっこう(かんてんべっこう)」とよんでいる寒天料理。これは、醤油味のだし汁に溶き卵を流し寒天で固めた単純な料理ですが、地元の甘口醤油でなければ味が決まらないと奥様方は口をそろえておっしゃいます。
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イベス・ユベシ
おさしみ
 煮魚や野菜の煮しめにも甘口醤油は欠かせません。北陸名物ぶりと大根を甘口の醤油の味付けでゆっくり煮込むと絶品です。焼き魚のかけ醤油にもやっぱり甘口のお醤油ですね。色が関西の淡口醤油と関東の濃口醤油のちょうど中間くらいだというのも北陸の甘口醤油の特長のひとつです。煮物の素材も色よく仕上がります。味のバランス、色の濃さともに使いやすく、お台所を預かる主婦の強い見方ですね。
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鰤大根 
煮しめ
 甘口醤油は子どもたちにも人気があります。生たまごに甘口醤油を垂らしておはしでカラカラとかき混ぜ、炊き立ての真っ白いごはんにかけると、お子さんたちはにおいをかいただけで幸せ気分ですね。子どもたちの大好きな卵焼きにも甘口醤油です。地元の甘口醤油でなければ「これ、いつもの味とちごーとる。」と子どもたちはとても敏感に反応します。子どもの味覚は繊細だと感心させられます。
 竜田揚げの下味をつけるのにも甘口醤油を使うとおいしく仕上がります。すまし汁にも地元の甘口醤油で味付けするとなんとも言えないコクのある味になります。お汁の色も濃すぎず淡すぎずちょうどよいですね。茶碗むし、キンピラ、すき焼き、炊き込みごはんにも、もちろん甘口醤油が欠かせません。そして香ばしく甘辛く、そしてほろ苦い地元名物どじょうの蒲焼にも甘口醤油が使われています。
卵焼き
竜田揚げ
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すまし汁
どじょうの蒲焼
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マツタケごはん
もちわん
 地元産の甘口醤油は、旨み成分である「アミノ酸液」と砂糖・みりん・甘草・水飴・糖液などの「甘味料」が配合され、各製造元それぞれ工夫をこらした味の調整がなされています。甘味料いりの醤油は全国各地に見られますが、こちらの醤油はとくに甘いです。これは、富山県だけでなく石川県と福井県の一部つまりは旧加賀藩全域に見られる独特の傾向であり、地域をあげて甘い醤油を好んで使い「甘口醤油文化圏」ともいうべき ひとつの食文化圏を作りあげているのです。特に海岸沿いの地域では甘い醤油が好まれます。
 富山県の食品別個人購入量のデーターをみると「砂糖」の購入量が他県に比べ低いことに気付きます。このデーターは富山県人が甘いお料理を好まない「辛党」であること意味するのではなく、県内で広く使用されている醤油にあらかじめ甘味が入っているのでお料理に「砂糖」を多く使う必要がないということを意味しているのだと思います。私たち富山県人はいうならば「砂糖をあまり使わない甘党」です。他県に比べ一世帯あたりの砂糖消費が少ないという傾向は富山に限らずお隣の石川・福井でも見られます。やはり理由は同じだと思います。
家計調査にみる1世帯あたりの品目別購入数量ランキング
                           (全国都道府県庁所在市別49都市中)
味噌(g)
醤油(ml)
砂糖(g)
富山(富山市)
8位(9,392)
10位(9,956)
35位(6,602)
石川(金沢市)
26位(7,354)
19位(8,974)
46位(5,349)
福井(福井市)
29位(6,474)
48位(5,477)
48位(5,185)
全国平均
7,386g
8,649ml
8,030g
平成14年度総務省統計局消費統計課調べ
 味噌は香り豊かな辛口の米こうじ味噌。そして、醤油は甘口醤油、だしは昆布と煮干を好むのが「味覚の加賀スタイル」です。
 本稿では 旧越中藩・旧加賀藩・旧大聖寺藩・旧小松藩の地域を「加賀」とよびます。かつてはこの4藩で120万石になり、加賀前田のお殿様は日本一の外様大名だったのです。今回は加賀の甘口醤油に秘められた、とても刺激的なお話です。利家公もちょっとびっくりなさるかも。
金沢城では、焼失していたままになっていた菱櫓・橋爪門続櫓・五十間長屋などが、平成の職人さんたちによって新たに復元された。平成の新櫓は古い資料にもとづき伝統工法により建設。主に石川県産のヒバ・松・杉が用いられた。施設内には木の香りが立ち込めている。金沢の観光名所がまたひとつ増えた。
前田利家像
金沢城平成15年5月

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