− 昆布と砂糖の物語 −
北海道羅臼町海岸の昆布干しの様子。富山でもっともよく使われるのが羅臼の昆布。
かつて富山から羅臼町への入植が多かったことのなごりだという。
(オ)甘口醤油は広域文化
 「砂糖の入った甘い醤油が九州地方と北陸地方に存在している。この飛び地は何を意味しているのだろう。」私の甘口醤油についての疑問はここから始まりました。

 風のうわさに聞くところ、九州では、「オランダを模して作られた」あの長崎ハウステンボスのレストランにもローカル色豊かな甘口醤油が置かれているそうです。また、鹿児島に旅行した方のお話では、たまたま入った食堂のテーブルには「甘口」「辛口」のラベルが貼られた二種類の醤油があったので「甘口」を使ってみると聞きしに勝る甘さだった。次に「辛口」を使ってみるとこちらもしっかり甘かった、とのこと。笑い話のようなお話です。またまた、大分県では刺身を食べるとき、甘口醤油にさらにわさびではなく砂糖を加えて食べる方がいるという信じがたいお話もあるそうです。さすがに九州の甘口醤油愛好度はすごい。敬服します。
 前回のお話の後調べてみると、甘口醤油は九州と北陸以外の地域にも存在することが分かりました。例えば、山口県。下関市を中心に県内各所で甘い醤油が愛用されています。そして島根県の日本海沿岸や隠岐の島、広島県呉市やその周辺の島々にも甘口醤油愛用地は点在していました。大分・山口・島根では再仕込みしょうゆを愛用している地域と混合・隣接しているのが特徴です。
 また、沖縄諸島では種子島、奄美島、徳之島などで、特に漁師さんたちが甘口醤油を愛用しておられるとのこと。こちらはさとうきびの本場ですからね。
北に飛んで東北では男鹿半島の周辺で、また下北半島の野辺地・東北・横浜・七戸の町で砂糖の入った甘い醤油が使われていました。太平洋側の青森県南部地方や岩手県遠野・釜石・大船渡の地域にも砂糖入り醤油が見られます。また北海道の旭川周辺でも甘口醤油の愛用が広く見られます。
 北陸周辺では隣接する若狭湾沿岸部・丹後半島・天橋立といった地域のお醤油も甘く、そして新潟県離島の佐渡ケ島も甘い醤油です。
「なぜ砂糖の入った甘い醤油を作っているのですか。」と醤油醸造所に尋ねてみれば、皆さん口をそろえて「地元の人の口に合うから」「昔からこの味だから」「お客様に愛されているから」との答えが帰ってきました。まぁ、当たり前の話。愚問でした。
 さらに太平洋を渡ったハワイにも地元産のとても甘い醤油、その名もアロハ醤油があるそうです。日本からの移民の方たちによる伝播でしょうか。ハワイでもやはり地元ニーズにあわせて甘い味にしているそうです。
 私が調べたところでは以上のようですがまだ他の地域にも甘口醤油愛用地があるのかもしれません。知っておられれば教えてください。
 甘口醤油のお話は「とてもマイナーなローカルねた」と思っていましたが、なかなかどうして日付変更線を越えてしまうほどの広域文化圏のお話のようですよ。


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