W瑞龍寺の「食」

 国宝瑞龍寺は、高岡の新しい観光地として多くの人が訪れる人気スポットです。加賀前田家とのつながり、境内に並ぶ建造物のすばらしさなどについては、案内書が数多く出版されています。ここではちょっと趣向を変えて「食」というキーワードで瑞龍寺を紹介してみたいと思います。
山門の「高岡山」法堂の「瑞龍寺」は黄檗宗隠元和尚の筆。インゲン豆は隠元和尚の名に由来することはよく知られるところ。隠元和尚は仏教の教えのみならず中国から食文化を日本に伝えた。
瑞龍寺は曹洞宗のお寺。かつては約200人もの「雲水」と呼ばれる修行僧が生活していた。回廊の天井からつるされている、宝珠をくわえた魚は「魚鼓(ぎょこ)」と呼ばれるもの。雲水たちが食事を始めるときこれを打った。魚鼓はお経のリズムをとる「木魚」とも通じ、昼夜眠ることのない魚を見習って、睡魔を追い払えとの意味がある。禅堂の簡素で凛とした雰囲気は禅宗のお寺ならではもの。外から禅堂内部に差し込む光が美しく心にしみる。ここで、雲水たちは心静かに座禅を組み瞑想をし、そして食事をとった。回廊に差し込む光は幾何学的な紋様を織り成す。瑞龍寺は光の設計がみごとなお寺。
大庫裏のある大きなカマド。お釜の蓋にも加賀藩の梅鉢紋が。このカマドで雲水たちは日々の食事を作っていた。禅宗では料理や食事も修行のひとつ。大庫裏は防火のため、頑丈な漆喰土蔵造り。高い天井とすっきり伸びる太い柱、無駄な装飾のない白壁、窓からはいるほのかな外光が清廉な印象を与える。「雲版」と呼ばれる雲の形をした銅製の板を打ち響かせ、寺全体に食事の合図をした。
会議・茶事が行われたという大茶堂にも小さなカマドがある。お茶事に使う湯を沸かしたのだろうか。こちらも漆喰土蔵造り。大茶堂の天井は漆喰塗り込めのなだらかなアーチ型になっている。静謐の中、声が音楽堂のように響く。ひんやりとした空気や床に落ちる柔らかな光は農家の土間のよう。戸口横には鎮火の神「秋葉さま」がまつられている。心やすらぐ清らかな風景だ。
瑞龍寺法堂の天井画には、美しい草花とともに素朴な雑草類も描かれている。中にはれんこん、大根、かぶら、うり、わさび、里芋、いんげん、たんぽぽ、甘茶つるなど私たちに身近な食用野菜・薬草も含まれていて興味深い。隠元和尚、沢庵和尚の例をとってみても、かつて野菜栽培や食品の普及に禅僧が深く関わっていた。禅宗寺院が地域の食文化に及ぼした影響は現代人が想像する以上に大きいのかもしれない。

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