・いかの黒づくり
 炊き立てのふっくらご飯の上に乗っかって、テラテラと光っている黒いもの。何でしょう。富山の方ならすぐに分かるのですが、初めて見る方にはちょっとグロテスク。「食べられるの?」と怪訝な顔をされそうです。
 これ、富山の特産品いかの黒づくりです。黒づくりもまた発酵食品です。イカの塩辛の一種ですが、イカ墨が混ぜてあり真っ黒です。イカ墨を加えることでイカの塩辛にはないコクと旨みが生まれますし、塩辛特有の臭みもイカ墨によって除去されます。
 これを食べたあとに、にっこり笑うと歯がくっきりお歯黒状態なので女性は要注意ですね。
 いか墨にガンの予防効果があるいわれて後の全国的な「いか墨ブーム」で富山の黒づくりの知名度はとても向上しました。昨今は、「いか墨パスタ」「いか墨パエリヤ」など外来物の人気にとどまらず、全国各地で新たに「いか墨パン」「いか墨ラーメン」「いか墨アイスクリーム」「いか墨シュークリーム」「いか墨せんべい」などのいか墨食品が相次いで発売されました。しかし、いか墨総本家の富山県人は思っています。「おらっちゃ、とやまナ300年前からいか墨ばやりだちゃ。歯ぁ黒てもダンナイちゃ。(ぼくたち、富山では300年前からイカ墨ブームだよ。歯が黒くったって平気だよ。)」そうです、イカの黒づくりは300年の歴史を持つ由緒正しき富山の伝統食品なのです。寛文年間(1661年〜1672年)にいかの塩辛が作り始められ、その後元禄の時代にはイカ墨を塩辛に混ぜるようになり、享保年間には今日と同様の製造法ができていたと伝えられています。また、前田富山藩の殿様が参勤交代の折に、将軍家に献上品として持参したという逸話もあります。
 黒づくりの材料はスルメイカです。スルメイカの胴肉を塩漬けにした後、細切りにし、肝臓・墨・酒を混ぜ合わせ熟成発酵させます。昔は高塩分で1ヶ月ほどをかけて発酵させていましたが、現在は甘塩タイプのものが好まれ、発酵期間も1〜2週間になっているそうです。保存食から嗜好品へ、発酵食品から和え物へとその姿を変えているのが黒づくりの現状です。
 黒づくりはあつあつのご飯にのせて食べてもおいしいのですが、大根おろしに黒づくりを添え、少々のレモンか柚子を絞って香りづけをして食べてもおいしいです。これはお酒の肴にも向いています。
 さて、この黒作りにとてもよく似た食品が沖縄にもあります。やはり、富山の黒づくりと同じくイカの塩辛にいか墨を混ぜたものです。沖縄にはイカ墨を使った料理もあります。沖縄ではイカ墨の塩辛を「イチャガラス」、イカ墨雑炊を「クリジューシー」イカ墨汁を「イカヌスミジル」というそうです。沖縄のイカ墨いり塩辛やイカ墨料理は古来からの由緒正しき伝統食です。琉球王朝時代に書かれた薬膳書「御膳本草」にもイカ墨は紹介されています。
また、イカ墨料理は長崎にもあるそうです。沖縄・長崎と富山とに共通する「イカ墨」、これも昆布を多く食べる習慣と同様にかつての北前船交易の痕跡なのでしょうか。興味深いですね。

Copyright 2003 YAMAGEN-JOUZOU co.,ltd. All rights reserved.