・殿様正月料理と出陣式
 殿様や大名といえば美味いものを食べている人の代表格。
 美味いところだけ食べて、後は残してしまう食べ方をしていると「殿様食い」だなんて言われます。まぁ、私の「殿様食い」はせいぜいスイカのレベルですが・・・。
また豪華な料理をいう場合にも「殿様」「大名」のフレーズは欠かせません。和食のお店をのぞきますと、一番上等の料理に「殿様御膳」や「大名御膳」いうお品書きがあるのをよく目にします。先日、年末も近いということで、いろいろな宴会場.が提案する忘年会プランを物色しておりましたら、「忘年会! 大名料理を 足軽価格で」という庶民の心情をくすぐるコピーを見つけ、とても魅力を感じてしまった私です。ないものねだりと申しましょうか、「殿様料理」「大名料理」という言葉は、庶民にとってなんとも言えない魅惑に満ち満ちておりますね。
食祭とやま2002、in高岡で再現された殿様正月料理。
高岡御車山のパネルを背景に展示。
 2年前の2002年10月に高岡で催された「食祭とやま2002、in高岡」では、寛永6年(1629)に加賀藩3代藩主・前田利常が食したという正月料理を再現するという企画がありました。「寛永六年御祝日御献立御器物書立帳」という古文献をもとに今から370年前の殿様正月御膳を現在に甦らせようというのです。「寛永六年御祝日御献立御器物書立帳」は寛永6年に任田久左衛門,御傍衆が書いた文書で、現在、金沢市玉川図書館近世史料館で所蔵されています。無論、古文献の限られた記述から完全な形で再現するのは到底不可能ですから、当世の歴史家・料理研究家・調理師の独自の解釈や想像を補いながらの再現ということです。
 再現された料理の詳細は次のようでした。

初献 長アワビ・かち栗・昆布
二献 鳥盛り(うずら)
五種盛り(カツオ スルメ 干タラ いりこ 海苔)
雑煮(わらび くしこ 豆腐 串アワビ 結び昆布 青菜)
三献 数の子 梅干 フナずし
本膳 塩引き(サケ) あえまぜ和交 (鯛 きんかん )
香の物(大根)  かまぼこ 小桶(さんまなれずし)
汁(いちょう・・ぎんなんのこと) 高盛御食(ご飯)
二の膳 鮎なれずし さけびて酒浸(ぼう鱈)  くらげ
焼き物(鰤)
貝盛(鱈・鶏・里芋・人参・椎茸・しわい)
汁(白鳥・・鶏で代用)
三の膳 羽盛
舟盛
サザエ
汁(鯛)
四の膳 鱒塩焼き
五の膳 鯉刺身

兼六園前田利家像
 これを見るに、初献・二献・三献は、戦国武将が出陣の際に行った「三献之儀」を踏襲するもの。すなわち、いざ出陣という時に鎧兜の装束に身を固めた総大将は、三宝(さんぽう)に縁起ものを「一に打ちあわび、二に勝栗、三に昆布」と置き、盃も「一献、二献、三献」と用意して盃の酒を飲んでは縁起物を食べる行為を3回行う儀式をしていました。「敵に打ち、勝ち、喜ぶ」としっかり縁起ものを噛み締めながら気持ちを引き締めて精神の統一を図った後、家臣と揃って鬨(とき)声を上げて戦に赴くのが戦国武将の習いでした。
 加賀藩が磐石の治世となった後も、先祖たちが槍や刀で切り開いた百万石の成り立ちを忘れるべからずという意味でしょう。前田の殿様の正月料理は出陣の儀式で幕が上っています。「一に打ちあわび、二に勝栗、三に昆布」をベースに、枝葉を増やして年の初めの目出度さをうまく演出しているところはさすがです。


Copyright 2004 YAMAGEN-JOUZOU co.,ltd. All rights reserved.