・稲積梅  梅が取持つ心の交流
  梅干。じっーと、5秒も見ていると・・・どうです? 唾が口の中にたっぷりたまってきませんでしたか。この条件反射、「やっぱ、日本人だなぁー」って思いますね。
このおいしそうな梅干は、富山県氷見市の稲積地区でとれる「稲積梅」で作ったものです。富山では、この「稲積梅」を使って毎年梅干を漬ける家庭が多いです。同じ梅を使いながらも各家庭における梅干の色や味は一様ではなく、びっくりするほど差異があり不思議だと思います。また、その年その年の気候によっても差異は生じますね。これが、自然発酵食品の偉大なところ。2つとして同じものはないのです。
今年は申年。申年に梅干を漬けると縁起がよいという謂れがありますので、とりわけ梅干をつけたご家庭が多いのでは? 私のまわりでも「梅干を漬けた。チソは1把いくらだった。はや、土用干しをした。赤いいいがになった。(赤くてよい仕上がりになった)ついでにラッキョも漬けた。」と梅干の話題が多く聞かれました。そういっているうちにも、どんどん唾はたまってきますね。
 さて、この「稲積梅」についてお話したいと思います。
 「稲積梅」は富山県の固有種の梅です。ふつう梅の木の枝は横に広がりながら成長しますが、この「稲積梅」あまり枝を横に張らないのが特長だそうです。そのため、雪が枝にたまりにくく、富山のような雪深い土地でも気候に順応して種を守り続けることが出来たのです。いつの時代から稲積地区に自生していたのかは定かではありませんが、「富山県の気候にあったよく育つ梅の木はないか」と県内中、足を棒にして探しまわっていた県農業試験場の方が氷見市上稲積の道渕家の梅園にたどり着き、ようやくここで「理想の梅の木」を発見して苦労が報われたという経緯がこの梅にはあります。昭和21年のことだそうです。それから、約60年の月日が流れ「稲積梅」は植樹が重ねられて、今では富山県の特産品の指定を受ける農産物となり地域産業を支えるまでとなりました。「稲積梅」は雪害に強いだけではありません。果肉がふっくらと厚くて種離れがよく、誠に食用に適しているのが特徴です。また元来が自生種ですので、稲積地区の梅園内での自家受粉が可能な品種でもあります。
 昭和61年、県の農業推進政策「一村一品運動」の一環として、稲積地区では「稲積好梅サークル」が誕生。以来、稲積梅を付加価値の高い商品として加工する努力を重ねてこられました。現在稲積地区の農家の女性6名からなるこのサークルでは、丹精込めた手作りによる梅干製造を活動の中心にすえ、その外、梅ジャム・梅みそ・梅ゆずみそ・ゆかり・みょうがの梅漬け・のり梅など、バラエティ豊かな梅加工品を作っておられます。
 また、近隣の稲積小学校児童と梅を通じて交流があります。子どもたちは5.6年生の総合学習の授業で稲積好梅サークルの方たちの指導のもと、梅干作りをしているのです。6月中旬に梅の摘み取りから始めて約2ヶ月間、選定―洗浄―アク抜き―塩漬け―チソもみ―チソ漬け―土用干し。富山湾越しに立山連峰を望む豊かな自然のもと、好梅サークルのご婦人方と子どもたちとの共同作業は続きます。「子どもさんたちは、土用干しの梅を広げる作業の時でも潰さないように1つ1つ大変丁寧に梅を扱われ感心します。とても上手なんですよ。」とサークル員の木谷環さんはおっしゃいます。
好梅サークルでは、作業を手伝ってくれた子どもたちのために梅干を使った「梅ゼリー」そしてあんこに梅干の果肉やゆかりを混ぜ込み梅の形に似せた「梅団子」を作ってあげるそうです。梅を使ったおいしいお菓子は子どもたちに大好評です。
 木谷さんたちは、子どもさんたちの共同作業を通して、子どもさんたちから元気をたくさんもらうそうです。
 「平成12年の富山国体秋季大会の時のこと、氷見市にこられたハンドボールの選手に子どもさんたち20名といっしょに、梅干のプレゼントをしました。氷見の特産品である梅を知ってもらうとともに、選手の疲労回復に役立てばと思い梅干3個入りの袋を1500袋作って贈ったのです。子どもさんたちは、1袋ずつに「梅のパワーでシュートを決めてね」「試合に勝って金メダルをとってね」などの激励メッセージを添えてかわいいリボンを懸けました。選手団にプレゼントを手渡す式典の時には、代表のお子さんが梅の紹介を交えてとても立派な挨拶をされ感動しました。選手の皆さんも喜んでくださり本当によい思い出となりました。」と木谷さん。また、「梅干づくりは私たちにとっては重労働。でも、子どもたちといっしょだと思うとがんばって梅干を漬けようと思います。」とも。
 同サークルでは、梅干しを使用した新商品の開発や新しい料理の提案と、ますます元気いっぱいの活動を展開しておられます。子どもたちとの心の交流に支えられる稲積好梅サークルの皆さん。12年に一度の「申年の梅干」の出来栄えも上々とのことでした。

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