・朝日町のばたばた茶
(上)五郎八と夫婦茶筅
(下)ばたばた茶をたてる
  富山と新潟の県境に位置する朝日町蛭谷の習俗、「ばたばた茶」。もう知っておられる方も多いかと思います。ばたばた茶の茶会は先祖の命日に催される「お講」のときに行われます。また、この「お講」には、結婚式の後のお嫁さんの紹介、出産祝い、入学祝いなど仏事以外の意味がプラスされることもあります。要するに何かにことつけ茶会をするのです。
 蛭谷は 世帯数100軒ほどの集落です。毎日、3軒ほどの家でばたばた茶の茶会が行われているそうです。午前9時半から11時ころまでがお茶会タイムとだいたいきまっているとのこと。ですから昼間家の留守を守っておられるお年寄りを中心とした和やかな集いです。これからの高齢化社会、とても参考になるお話です。
 まず、いろりに茶釜をかけ、黒茶とよばれるお茶の葉を木綿の袋に入れて煮だします。お茶を1時間ほど煮だしたところで、ご近所からお茶会の催される家に常連の顔ぶれが集まります。皆さんの手にはそれぞれ茶巾袋が下げられていて、中には『マイ茶碗、マイ茶筅』が入っています。茶碗は「五郎八」とよばれるもので一般の抹茶茶碗より少し小さく手におさまりやすい大きさ。茶筅は約15センチの細い茶筅を2本合わせた「夫婦茶筅」です。「ごっつお様ナ(ごちそうさま)」と、いろり端に腰をおろすと持参の袋より茶道具をとりだして準備はOK。すでに家の中には黒茶の芳しい香りが立ち込めています。皆さんがお茶を戴くに先立ち、先ずは仏様にお茶くんでお供えします。続いて各自持参の五郎八茶碗に一杓ずつお茶をくみます。お茶に塩を少々いれていよいよ茶筅のバタバタが始まります。夫婦茶筅の使い方はお抹茶の茶筅と同様です。バタバタを続けると大きな泡はだんだんと細かな泡へと変わり白くこんもりと茶碗に盛り上がります。茶筅を持つ手元が軽快に動けば世間話もはずみます。ここにはお茶席のような緊張感もかた苦しさもありません。近くの野山でとれた山菜類の煮しめ、漬物、厚揚げの煮物、黒豆の煮物などの郷土料理をいただきながら、気心の知れた者同士ざっくばらんなティータイムを楽しみます。
 「ばたばた茶」の風習は「振り茶」とよばれるもので、類似したものに島根の「ぼてぼて茶」、沖縄の「ぶくぶく茶」があり、そのほかにも福井県三方、石川県大聖寺、愛知、静岡、埼玉、徳島県阿波にも「振り茶」は点在しているそうです。かつて「振り茶」は庶民の間に広く行われていた習俗だったのでしょうか。
. 蛭谷の家庭では、ばたばた茶の黒茶を日々の食事のときにも飲んでいます。その際、ばたばたと泡をたてることはしません。カフェイン量も少なく飲みやすいお茶です。
 この黒茶は、摘み取ったお茶の葉を発酵させてつくる発酵茶です。紅茶・ウーロン茶も発酵茶ですが、紅茶・ウーロン茶が茶の葉に含まれる酵素の働きで発酵して作られるのに対し、黒茶のほうは酵素の働きをいったん止めた後、微生物の働きで発酵させています。四国の阿波番茶・碁石茶・石鎚茶そして中国のプーアル茶も黒茶と同じく微生物による発酵茶です。後発酵(こうはっこうちゃ)といっています。黒茶の作り方は次のようです。
茶摘み 8月の上旬ごろに摘んだ茶を枝ごと刈り取って使用する。
蒸煮 煎茶用の大きな釜で黄土色になるまで蒸す。蒸すことで茶の葉っぱの酵素の働きが止まる。ざるに取り水きりをして、すのこに広げて半日ほど干して、生干しにする。
発酵 室(むろ)に入れる。発酵が始まり発熱する。しばらくの後お茶を固め、圧縮して板で囲う。発酵熱が低いときには囲いの回りに被いなどをして発熱を助ける。茶の葉や温度湿度の差によって発酵の経過は様々。
切替し 60度以上にならないようにお茶の切替しを行なう。箕(み)にお茶を取りゆすって発酵熱を逃がし積み直す。また、固める。この切替しを発酵が終わるまで繰り返す。
乾燥 発酵が落ち着いたお茶を室から出して天日で干し十分に乾燥させる。
貯蔵 紙袋に詰めて湿気を避けて貯蔵する。
出荷 小袋に詰め、各家庭にむけて出荷する。
 唯一の黒茶の製造元であった富山県射水郡小杉町青井谷の萩原昭信さんが近年で高齢を理由に黒茶の製造を止められました。「黒茶づくりは試行錯誤の連続だった」と振り返る萩原さん。黒茶づくりは大変に体力と気力を要する仕事です。その後の黒茶づくりを引き継いだのが蛭谷の方たち。萩原さんのアドバイスを受けながら、茶の木を植えるところからのスタートでした。
 ばたばた茶の継承者である朝日町蛭谷では自分たちの黒茶を自分たちで作ろうと「株式会社あさひ」を立ち上げ、黒茶の製造販売に乗りだしました。町をあげて地元の伝承文化であるばたばた茶を守り、普及していこうということになったのです。「株式会社あさひ」では、黒茶のほか五郎八・夫婦茶筅などのばたばた茶グッズをネット販売しています。興味のある方、是非購入してみてください。そしてお友達といっしょに楽しいばたばた茶のひと時を。
 私としては、ミルクティー風にホットの黒茶に牛乳を入れて飲んでみたのがおいしかったです。また、冷たくしてアイスティーでいただいてもおいしいですよ。  ばたばた茶に使用する黒茶には、コレステロールを除去して血行を促進し、高血圧の予防する効果のほか、ダイエット効果もあると聞きました。黒茶は健康にもよいのです。

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