(キ)なぜ甘いのか諸説あります

 さてここで、「北陸の醤油がなぜ甘いか」という疑問について唱えられてきた諸説を紹介しましょう。醤油が他の地域に比べて著しく甘いことに気付いている人たちを中心に実にいろいろな説が論じられてきました。
北陸の甘口醤油は九州醤油ほどトロッとしていません。色は淡口と濃口の中間、甘さは少し控えめです。
理由その一  北陸では特に海岸沿いの地域の醤油が甘い。海岸部では辛い潮風にあたった舌を緩和するのに甘い醤油が好まれる。
理由その二  北陸でとれる鰤・甘えび・いか・ばい貝などのキトキトの魚介類に甘い醤油がよく合うから。
理由その三  北陸は寒いので厳しい寒さに打ち勝つため、甘い醤油が好まれたから。気候の温暖な太平洋側は辛い醤油を使う。
理由その四  船乗達が船上で調理しやすいように醤油に砂糖を混ぜて便利な調味料を作った。
理由その五  北陸では伝統的に昆布だしをよく使うので昆布と相性のよい甘口醤油を使う。これに対してかつおだしを使う地域は辛口の醤油を使う。
 このほかにも、九州のある醤油メーカーの社長さん曰く、「なぜ、九州の醤油は甘いのか、それは、ほかの醤油が辛いだけである」とのご高察。ごもっとも。製造者の自信がひしひしと伝わってくるようです。でも、ちょっと別格ですね。
 これらどの理由にもそれぞれ「なるほど」と思わせる節があります。でも、少し曖昧でキメテを欠くようです。
 (その一)についてですが、九州もやはり海岸部が甘く、九州でも同じように言っているそうです。また、先にも申しましたが、沖縄諸島にも甘い醤油が存在しており、ウミンチュと呼ばれる地元の漁師さんたちは激甘醤油でお刺身を食べる習慣があります。やはり「いつも海の上で口の中が辛いから」との理由を言っておられるそうです。しかし、この理由については「日本は海に囲まれている。太平洋側の銚子や浜松や白浜の漁師さんは辛口醤油を使っているけど舌が辛くならないの?」と反論されそうです。
 (その二)について言えば、甘口醤油になれている北陸生まれ北陸育ちの私などは、太平洋でとれた魚だって、インド洋でとれた魚だって甘口醤油で食べたほうが超おいしいです。
 (その三)については、九州では「厳しい暑さ」に打ち勝つために甘い醤油を使っているそうです。―――なんだか訳がわかりませんね。
 (その四)、北前船で有名な北陸の船乗達のアイデアというのも興味深い意見です。荒波の上で生活する、北前の男たちは砂糖大さじ○杯、みりん小さじ△杯、醤油大さじ×杯なんて細かいことを言わず、大胆に甘口醤油一本でOKというわけです。でもそんなに便利なら、なぜ全国に波及せず一部地域の醤油の手法にとどまったのでしょう。  
 これらの理由の中で現在もっとも支持されていると思われるのが(その五)「昆布だしとの相性説」です。
根強い地元ファンに支えられている当社のローカル商品ヤマゲン濃口醤油。赤と黄色のラベルと甘い味でおなじみ。県外で生活する息子のもとへ盆暮れには必ずこの醤油を贈っているお母様も。

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