(イ)九州の甘口醤油
 加賀よりさらに甘い醤油を使っている地域があります。それは九州です。とくに鹿児島の醤油は超激甘です。九州では南部ほど醤油が甘く、特に海岸沿いが甘いのです。海岸沿いが甘いというのは加賀と同じですね。ともかく、九州醤油と加賀醤油は甘口醤油の双璧と言えるでしょう。
 九州や加賀の甘口醤油は一般に「新式醸造醤油」と呼ばれ、「本醸造醤油」と区別されます。「新式醸造醤油」とは、たんぱく質を化学分解して作るアミノ酸液と本醸造の生揚げを混合しさらに熟成発酵させて作る醤油です。九州と加賀の醤油はこれにたっぷり甘味料を添加し味の調整をします。ここで問題とされるのは九州と加賀の醤油が、たっぷり甘味料を主に砂糖を添加するのはどうしてかということです。
 関東は濃口で関西は淡口、加賀はちょうど真ん中で濃口淡口の境目だといった食文化論があります。確かに加賀の醤油は関東の濃口醤油ほど色が濃くありません。濃口と淡口の中間くらいの色です。しかし、そのことはこの問題の解決にはつながりません。
 甘味料のたっぷりはいった醤油を、自らの食文化のなかに受け入れた地域には、なにか共通する素地があった、つまりその地域には共通した歴史があったのではないでしょうか。
なぜ、加賀と九州に醤油の類似がみられるようになったのでしょう。共通した歴史とは何なのでしょう。加賀と遠くはなれた九州との「甘口醤油文化圏」の飛び地は何を意味しているのでしょうか。
 私は今から20年前の夏、友人たち数名と長崎、熊本を旅行したことがありますが、驚いたのは夏の暑さと早口の方言でした。失礼になるかもしれませんが、九州の早口の方言はほとんど意味が理解できなかったです。きっと、九州の方が北陸に来られても雪の多さと地元の方言に驚かれるのではないかと思います。それほどに両地域間には文化の差異が見られました。
 しかし、文化の差異ばかりではなく、類似にも気付かされる一件がありました。それは、先にも述べたお醤油の味です。長崎、熊本を旅行には、関西出身の女性が同伴していました。彼女の九州の醤油にたいする反応はとても印象に残るものでした。「甘くて、食べられへん。これは醤油やなくてソースや。」というのです。おまけに、彼女は「九州男児やいうてるけど、こんな甘いのん食べてホンマは軟弱やん。」と続けました。たしかに、甘味・雑味を入れるなど醤油というよりソースの発想なのかもしれません。関西の淡口醤油で育った彼女にとって初めて口にする九州醤油は異文化体験だったのです。それに比べて北陸の甘口醤油で育った私には、九州の醤油がとてもおいしく感じられました。人の味覚とは慣れた味をおいしいと感じ、不慣れな味には拒否反応を示すもののようです。それにしても関西育ちの彼女の言葉はいささか辛口。
 では、「甘口醤油文化圏」の歴史、九州と加賀との共通の歴史を追って見ましょう。全然ないようであるのですから不思議です。
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