(セ)大野醤油の砂糖伝承

 「ちょっとちょっと、富山と沖縄の昆布料理のルーツはわかったちゃ。売薬さんはやっぱ、たいしたもんや。並みの根性でちゃないちゃ(並大抵の精神力ではない)! で、それと甘い醤油とどう関係あるがけ。」 そうでしたね。甘い醤油のお話でした。昆布のことで頭がいっぱいいっぱいでした。
さきにも述べたように、甘口醤油を愛用している地域と昆布を多く消費する地域とはほぼ一致しています。ここまで、私は甘口醤油のルーツを探る手がかりは昆布の歴史の中にあるのではないかという想定でお話をすすめて参りました。そして、富山や沖縄を筆頭に昆布を多く消費している地域は、昆布ロードの中継地・寄港地やその周辺の地域であることなどを申しました。
 さて、ここで注目したいのが甘口醤油の原料である「砂糖」です。
 甘口醤油を愛用している地域
  =昆布の消費量が多く昆布の食文化が発達している地域
  =かつての昆布ロードの中継地・寄港地とその周辺の地域
 加賀金沢の外港として北前船の出入りでにぎわった大野は、江戸時代から続く日本海側屈指の醤油の大生産地です。起源の古い醤油産地で伝承によれば江戸時代の元和年間(1615-1624)に大野の住人直江屋伊兵衛が醤油の醸造方法をこの地に伝えたのが始まりだそうです。江戸時代後期には加賀藩の特産品のひとつとして大野醤油は確固たる地位を築いていました。加賀のお殿様も大野醤油が大好きで江戸参勤の折には大野の醤油諸味を乗せた船をチャーター。赤門で有名な加賀藩江戸屋敷まで諸味ごと運ばせこれを愛用していたそうです。加賀のお殿様も地元のローカル醤油じゃないとだめな人だったのですね。気持ちわかりますよ。
 言うまでもなく大野醤油は北陸独特の砂糖入り甘口醤油です。この大野には「江戸時代から醤油に砂糖を入れて品をよくする工夫をしていた」との砂糖伝承があります。丹後や越前・富山の古い醸造場にも「いつからかはっきり分からないが古い時代から醤油に砂糖を入れていた」「黒砂糖をいれていた」「甘いひょうたんみつ(氷糖蜜?)をいれていた」との伝承が聞かれます。また、遠く離れた鹿児島醤油でも同様の砂糖伝承が残っているのです。醤油に砂糖を混入する手法は起源の古い伝統手法なのです。

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