大河ドラマに前田利長を
 読者の皆さんは、前田利長にどのようなイメージをお持ちですか。
 先日、県外からのお客様を高岡の瑞龍寺と前田墓所にご案内したとき、
 「瑞龍寺は、前田利長の菩提寺です」と説明すると、その方、
「前田利家は、よく知っているが前田利長をあまり知らない」とおっしゃる。
「その殿様は、前田家の何代目ですか」と。そこで、
「前田利長は、ひらたくいうと利家とまつの長男です。二代目ですよ。」
と、答えれば、
「ああ、二代目さんというのは、どうも、ぱっとしない人物が多いんですな。徳川の二代将軍秀忠も、初代家康や三代家光に比べるとぱっとしませんな。秀忠などは、天下分け目の関ヶ原の戦いに遅れてしまう頼りない男です。二代将軍になった後も実権を握っていたのは大御所家康だったでしょ。二代目さんというのは、おとなしいお人が多いんです。それにしても、大きな菩提寺ですな。御墓もたいへんに立派です。驚きました。」
と、おっしゃいました。
 この方の言われるとおり、前田利長は、徳川秀忠と似たタイプの人物としてとらえられることが多いのです。
しかし、前田利長は、高岡においては初代前田利家をはるかにしのぐ人気の藩主です。
前田利長墓所
 先日、私の母に、
 「かぁちゃん、利家と利長じゃ、どっちが名君け?」と聞きますと、
 「そりゃ、あんた利長はんに決まっとっちゃ。殿様の偉業は墓みりゃわかっちゃ。利長はんのお墓は、日本一立派なもんやちゃ。瑞龍寺に祀られとるがも二代目の利長はん。利家はんの墓は、ゆうて気の毒やれど、野田山のちんちゃい土饅頭やちゃ。
(それは、利長公のほうに決まっている。殿様の生前の偉業は墓から推察される。利長墓所や瑞龍寺の壮大さに比べ、言っては悪いが、野田山の利家墓は小さいものである。)」
と、母は墓を持ち出して、「利長名君説」を唱えたのです。おそらく、これが高岡の人の一般的な考えでしょう。なんとしても、利長公が一番なのです。
 ところが、高岡から一歩外に出ると状況は変わります。
 律儀実直な気立てから織田信長や豊臣秀吉の信頼を得、「槍の又左」と異名をとった剛健な戦国武将の初代利家や、鼻毛を伸ばして馬鹿殿様を演じつつも、藩の財政・産業育成・文化振興の政策をぐんぐん推進し加賀百万石の繁栄を築いた個性派の殿様三代利常の人気に比べると、二代利長は確かに、殿様オーラに欠けています。私の母の意見などは、偏見に満ち満ちているということになります。
 ところで、NHK大河ドラマ「利家とまつ」での利長役は、伊藤英明さんでした。覚えておられますか。若い伊藤英明さんのおかげで、前田利長のイメージも随分変わったのではないでしょうか。大河ドラマでどんな役者さんが役を演じるかによって、その人物のイメージは大きく変化します。大河ドラマの効果は絶大です。
 高岡のお年寄りたちの中には、「もっと、どっしりと威厳のある役者さんのほうが、我らが殿様利長公のイメージにあっている。昔の俳優でいうなら長谷川一夫。」なんて言っていた人もいましたが、それじゃ利家役の唐沢寿明さんと、どっちがお父ちゃんか分からなくなるんじゃないの?
NHK大河ドラマ「利家とまつ」の前田利長役、
伊藤英明さん、男前です・・・。
 さて、高岡は2009年に、「開町400年」をむかえるわけですが、高岡に住むもののひとりとして私は、400年の節目の年にぜひ前田利長公を主人公にした大河ドラマをと願っています。
 前田利長の人生は、これまで「古城万華鏡」でも紹介したとおり、初代藩主前田利家以上にドラマチックで語るべきところが多いと思いませんか。
 そして、前田利長を巡る人間関係は、実に多彩です。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康ら天下人をはじめ、蒲生氏郷、高山右近、細川忠興、宇喜多秀家・伊達政宗・毛利輝元らの戦国武将たち。おね、豊臣秀次、淀君、秀頼たち豊臣家の人々。後陽成天皇に正親町天皇。茶道の師千利休、宣教師ルイス・フロイス、オルガンチィーノ、絵師の長谷川等伯。瑞龍寺(法円寺)の開山である広山恕陽(こうざんじょよう)。高野山の木喰応其(もくじきおうご)。倶利伽羅山の秀雅。豊国神社の吉田梵舜。比叡山の南光坊天海。そして、前田利家・まつをはじめ、利政、利常、豪姫ら前田家の人々や、前田家の家臣たち。それからお抱えの大工に石工、商人。陰陽師や御伽衆。幸若舞の舞手たち・・・。
 「古城万華鏡」でも、多くの人物を紹介させていただきましたが、教科書に登場するようなビックネームが目白押しです。大河ドラマへの登場人物には、事欠きません。
 そして、前田利長の生きた時代背景は、織田信長の天下布武(てんかふぶ)から、豊臣秀吉の政権を経て、徳川幕府の元和偃武(げんなえんぶ)までと、まさに、激動の時代です。
 こんなに大河ドラマに適している武将は、外にいないと思うのですが、如何でありましょうや。私の声が、NHKにまで届けばうれしいのですが、どこの地域でも「おらが町の英雄を大河ドラマに」と虎視眈々と狙っておられるようで、実現は難しいのでしょうねぇ・・・。

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