| 能登七軒町の娘、お光 | ||||
 高山右近は七尾にて高岡城のプランを練り上げたとは、「長兵衛、隠れキリシタン料理を食す」で紹介した本行寺御住職小崎学円さんから伺ったお話。右近は当時本行寺に滞在していた南蛮の宣教師たちの意見を取り入れながら、高岡城の築城のプランを仕上げていったとのこと。七尾付近の能登島・前波・黒崎は、安山岩の産出場として重要であったことは、先の「石の産地」でも触れました。魚津が早月川流域の採石を指揮する拠点であったように、七尾は、能登産石材の採石を指揮する拠点でした。魚津に前田利長、七尾に高山右近、という実に巧みな図式です。 また、七尾は能登産の材木の伐採を指揮する拠点でもありました。高岡城築城に使用される木材の多くは能登に頼っていたと言われています。石材・木材の輸送を通して能登の中心地七尾と高岡とは海上の太いパイプで結びついていたのです。 そして、万一の有事に備え七尾の小丸山城から、いつでも利長が滞在する魚津城や建築中の高岡城に援軍を送れるよう軍備体勢が整えられていました。仮に本城金沢からの援軍が遅れても富山湾沿岸地域の防塞体制で急場をしのげるシュミレーションでした。高岡城築城の期間、七尾は大変に重要な意味を持っていたのです。高山右近が七尾にあったというのも「なるほど」と頷けますね。 高岡には築城当時の伝説として次のような話が残っています。 「昔、高岡城が築かれた時、肝心の外濠にどうしたことか掘っても掘ってもなかなか水が出ないので、当事者一同が困っていた。そんな時、能登の七軒町の廻船問屋甚右衛門の娘お光は、それまで一度も笑ったことがなかったのに、生まれて初めてうれしそうに微笑み、『高岡のお城に連れて行ってほしい』という。反対する両親を説得してようやく高岡城にやってきたお光は、お城に着くや枡形濠に近づいてこう言った。『こんなに美しいところこそが私の住処。』そして、身を躍らせて枡形濠に飛び込んだ。そのとたん、今まで水の出なかったお濠の底からものすごい勢いで水が湧き出しお壕は見る見るうちに満々たる水を蓄えた。お光は、龍の化身であったのだろうと人々は言った。今もお光は龍の姿となってお壕の水を守っているという。」
そして、さらに私が関心を引かれるのは、お光が能登の七軒町にある廻船問屋の娘であったと言うことです。 私はこの「能登の七軒町」がどこなのかを調べてみました。すると、あったのです。七尾市には、現在も府中町の一角に「七軒町通」の名があるとの情報を得ました。七軒町通はかつて廻船問屋や魚問屋が軒を連ねて栄えた町で七尾の町の経済の中心でした。おそらくお光は今でいう七尾市府中町七軒町通りの住人だったのです。「七軒町通り」近辺には、「塗師町」「鍛冶町」「大工町」「檜物町」とかつての職人町があり、さらに「作事町」の地名が存在しています。「作事町」の地名の由来は高岡築城の「作事（建設工事）」にあるのかもしれませんね。七尾の浜に残る職人町地名は、高岡城で使用される資材がこの地で粗仕上げされた後、高岡に運ばれ城内にて組み立てられていた、七尾の浜が高岡城築城のバックヤード的な機能を果たしていたと連想させるものです。 このお光の伝説はお濠の水の由来譚であるだけでなく、高岡築城時に七尾と高岡との間に太い輸送パイプがあったことを伝える説話でもあるのです。 能登半島産の木材・石材は舟で伏木や六渡寺・放生津に着岸し河川輸送で高岡の窓口である木町の浜に搬入されました。伏木・六渡寺・放生津は大変に歴史の古い港ですが、高岡城の築城に際し、より一層の整備拡充が行われたのです。そのことは、後の北前船の時代にこれらの湊が寄港地として繁栄する礎となりました。
|
