守山城下町の味噌料理
 先ほど、こうじを作る室屋が守山城下町にあったお話しをしました。
畠山氏の居城
難攻不落の名城といわれた七尾城
 ここで米こうじ味噌の北陸への伝播の時期について考えて見ましょう。北陸への味噌製造技術の伝播は戦国時代以前の事とも言われています。2002年放送のNHK大河ドラマ「利家とまつ」でも、まつが味噌汁をつくるシーンがよく見られましたね。松嶋菜々子演じるまつが、味噌汁の味見をしてにっこり微笑むシーンなど、私のような味噌屋でなくてもうれしくなってしまったでしょう。また、まつが、味噌汁で織田信長の心を和ませるというシーン、夫の利家に味噌汁を出しながらぴしっと諌めるなんていうシーンもあり、ドラマの中で味噌汁はとても存在感がありました。
 実際に、前田家は滋養と食料備蓄のために、味噌づくりを領民に奨励したと伝えられます。しかし、不思議なことには前田氏の出身地尾張は「豆みそ」文化圏であるのに、「豆みそ」の分布は北陸ではまったく見られず、北陸は純然たる「米みそ」文化圏です。前田家が好んだであろう尾張系「豆みそ」は普及に至らなかったということです。これは北陸が米どころであることにも起因しているのでしょうが、前田氏の領地支配の始まる戦国時代以前にすでに「米みそ」が北陸に広く深く定着、浸透していたことが大きな原因ではないでしょうか。
 米こうじ味噌の製法がどのような経路で北陸一円に伝播したのかは定かではありませんか、室町幕府の三管領のひとつ畠山家の北陸支配など大きな契機となっているのではないかと私は思っています。太平記の中に、
何程の豆を蒔いてか畠山 日本国をば 味噌にするらん
 と、畠山氏の政策を揶揄した歌が登場しますが、このような戯れ歌ができるほど畠山氏は、大豆栽培と味噌づくりには熱心だったようです。北陸の味噌の歴史を考える上でとても興味深い話だと思います。畠山氏の奨励する味噌は米こうじの味噌だったのではないでしょうか。
 さて、守山城下町の味噌料理を思いつくままに想像してみましょう。
 味噌料理では、「味噌汁」が主であったでしょうね。味噌は、やはり、富山湾沿岸に特徴的なタプタプと水分の多い高塩分の味噌と考えたいですね。味噌づくりの中心は、城下町に40ケ寺もあったという、寺院であったのでは。寺院から庶民へ、仏の教えが行き渡るように、味噌づくりの手法も伝えられたと想像します。どの家からも木桶に仕込まれた味噌の熟成する香りがしていたのでしょうね。近隣の小矢部川の川魚や二上山でとれた山菜やきのこの味噌汁などが定番メニューでしょうか。それから、富山の魚介類の味噌汁も食べていたと思いますよ。守山城下町には、「氷見屋」という屋号の家があるくらいですから守山城下町と富山湾海岸部との交流は盛んであったと思います。海老坂(えびさか)峠を越えて陸路で、また伏木湊から小矢部川を上って、富山湾の海の幸はふんだんに城下町にもたらされていたことでしょう。魚を専門に商う商人もいたかもしれません。
わたり蟹の味噌汁
ふきのとうの味噌よごし
酢みそ和え
イカの田楽
鯖の味噌煮
田楽豆腐
筍と昆布の味噌炊き
大根の田楽
柚子釜
 それから、山菜や野菜の味噌よごし。山菜や野菜を細かく刻んで味噌で炒りつけたやつ。味噌よごしも大変に起源の古い味噌料理だそうです。ほかほかの白い御飯に・・・とはいかないと思いますので、粟飯・麦飯・稗飯などに味噌よごしを混ぜて食べていのでしょうか。魚や野菜の田楽料理もこのころすでにあったかもしれませんね。
 先ほど、竹の話が出ましたけれど、臨済宗本山の国泰寺付近の西田(サイダ)地区にはうっそうとした孟宗竹の竹林が広がっています。国泰寺の筍の精進料理は地元名物。中でも筍の味噌炊きは有名です。サイダの筍は、エグミもなく採れたてのものは糠や米の研ぎ汁で下茹でする必要もありません。最近、下茹でをするようになったのは、NHKの料理番組に習ってやっているだけであまり意味のないことです。
 高岡の家庭では春の筍シーズンを心待ちにして筍の味噌炊きを作ります。当社のデータでは、毎年5月の味噌の出荷量が10月・11月についで年間で3番目に多いのですが、それは地元に筍の味噌炊きを作る習慣があるからだろうと社内では言われています。それほど、筍の味噌炊きはポピュラーな郷土料理です。寺院の伝承料理と庶民の郷土料理との関連を伺わせる興味深い事例ですね。
 筍と昆布を味噌でゆっくりと、昆布が煮崩れしてとろとろになるまで煮込みます。昆布がとろとろになっていないと煮方が足りないと言われてしまいます。使用する昆布は、肉厚の羅臼昆布などではなく、「筍昆布」「早煮昆布」などの商品名で販売されている、肉薄で短いタイプのもの。この筍の味噌炊きなど守山城下町の時代からあったのでしょうか。   
 なんだか、ぷーんと、味噌の香りがしてくるようです・・・。

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