旅人にとって、旅先の名物を食らうことは大きな楽しみのひとつです。私、長兵衛のごときに食欲著しいものにとっては、名所名跡を巡るとこより、ともすれば味めぐりのほうが優先されたりする・・・。例えば、旅先で食べたうまい山かけそばの味は鮮やかに覚えているというのに、訪ねた寺の名前は「はて、なんというのだったか・・・」忘却のかなたに消え去ったりしているのです。「花より団子」タイプというのか、読者の皆さんの中にもおられるでしょ、そんな方。
「越中高岡もてなし料理」コンテスト審査風景
 わが町高岡は観光都市としての躍進をめざし、去年(2005年)を「高岡観光元年」と唱いました。いろいろな方面からの働きかけが功を奏し、高岡を訪れてくださる旅行客は徐々に増加しているようです。そのような中、「心に残る高岡ならではのもてなし料理を創出しよう、高岡の名物といえる料理を作ってお客様に喜んでいただこう」そんな気運が、どこからともなく沸き起こってきました。そして、歳もつまった去年の12月、高岡観光元年のラストスパートとでもいうのでありましょうか、第一回「越中高岡もてなし料理」コンテストが開催されたのです。
 そして、95名の応募の中から書類審査を通過した腕に覚えのある25人が、いよいよ12月25日国宝瑞龍寺の大茶堂に結集し、地元の海や山里の幸をふんだんに使ったメニューで料理対決をしました。その賞金がまた、すごかったのです。A部門(店頭価格一万円相当)が50万円、B部門(五千円相当)が30万円、C部門(千五百円相当)が10万円。本審査に進んだ25人は、ふたつマナコもギラギラの真剣勝負だったわけです。そして本審査の結果、A部門は釣賢一さん(42歳)、のB部門は中村勝治さん(56歳)、のC部門は西谷美智子さん(53歳)が、グランプリに輝き賞金を手にしました。
 実を申せば、この長兵衛めも運良く書類審査を通過し、本審査の激戦の舞台に立っていたのでした。しかし、「長兵衛よ、おまえ、そりゃ 恥をかきに行くようなもんや。止めとこぞ、止めとこぞ」と言った社長のお言葉の通り、わたしゃみごとに落選。賞金獲得の夢は国宝瑞龍寺に舞い落ちる淡雪ともにはかなくも消えたのです。とほほ。
 まぁ、私のことなどはどうでもいい話です。
 A部門の釣さんの「高岡もてなし遊食膳」は、高岡周辺を味で巡ることがテーマで、氷見牛氷見ブリ・新湊のズワイガニ鱈の白子白えびなどを新鮮な感覚で料理した献立。B部門の中村さんの「高岡冬グルメ」は、冬の富山湾の素材の良さを生かし、富山湾の隠された名物ゲンゲのから揚げや、白子の昆布焼など他所では味わえないふるさと富山の旬の美食を創出していました。聞いただけでも、よだれがでてきそうでしょ。そして、C部門の西谷さんの「高岡満載弁当」は、高岡産の食材で尽くした弁当で、福岡町との合併を記念して、鯉ずし・鴨肉の照り焼きなど福岡町の産物を加えて心憎い演出を見せていました。 グランプリ受賞者はいずれもプロの調理人ばかりでしたが、地元の腕自慢の主婦や調理師を目指す高校生や駆け出しの若い板前さんたちからの出品、おまけに某地元調味料メーカーからの無謀な出品もあり、地元食材を使い創意工夫に富んだ個性的な料理がそろいました。
 また、新年の明けた1月14日には、高岡市の名所を巡る「越中高岡もてなし料理とっておきの味めぐりツアー」が行われ、金沢市・白山市などから参加した約50人が冬の高岡を訪れました。瑞龍寺・伏木勝興寺・土蔵造りの町並みなどの高岡観光に加え、越中高岡もてなし料理コンテストでグランプリを受賞した料理の特別試食会がツアーに組み込まれており、昼食は、高岡ホテルで、ゲンゲのから揚げ・白子の昆布焼き・カニの甲羅焼き・大盛のタラの味噌汁など富山湾の冬の味覚を満載した五千円コースのグランプリ受賞料理を味わいました。越中八尾おわら道場の方たちが奏でる胡弓や三味線の音色が試食会に趣を加え、参加者たちは高岡流のもてなしに大満足、評判は上々でした。
 「越中高岡もてなし料理」は1月21日から3月31日まで、この企画に賛同している高岡市内の飲食店で出されます。取扱店については、下記のホームページでお確かめください。また、料理を食べた人を対象に抽選でハイビジョンテレビ(1名)が当たるキャンペーンも行われています。
 http://www.takaoka-nankatsu.org/motenashi/setumeikai.html
「これは一度食べてみなければなるまいよ」
 自称「高岡食文化の伝道師」長兵衛は、清水の舞台から飛び降りたつもりで、一万円料理を食べてみることにしたのでした。ところは、老舗料理旅館高岡ホテル。ちなみに、高岡の人が「ホテル」と口にすれば、それは他ならぬ「高岡ホテル」のことです。たとえば、「今日の宴会はホテルや」と言われて、「そりゃ、どこのホテルけ?」などと聞き返す人はおらず、暗黙のうちに「高岡ホテル」と理解されるのです。
 高岡ホテルは、明治38(1905)年、高岡産業博覧会の開催を機に建てられた、百年の歴史を持つ老舗旅館です。随所に贅と粋とが尽くされた建物は、積み上げられた時代の重みをずっしりと感じさせます。また、建具・調度品には、季節折々の細やかな心配りがなされ、老舗旅館ならではの風格が醸し出されています。高岡ホテルは、名木ぞろいで知られる広大な庭や優雅なアールデコ調の階段を含め、建物そのものが高岡の貴重な文化財のひとつともいえるでしょう。
 さて、高岡ホテルのロビーや廊下では、見ごたえある書の数々が目に付きます。それらは、松村謙三氏・片岡清一氏・綿貫民輔氏・そして憲政の神様尾崎咢堂(行雄)氏ら、高岡ホテルを愛してやまなかった政界の著名者たちが寄贈したものです。高岡ホテルは、創建以来、政界・実業界の人々社交の場として年輪を重ねてきました。北陸の商都高岡の経済の発展にも、大きく貢献してきたのです。  
   
 さて、本日、長兵衛が食した「高岡もてなし遊食膳」の献立を紹介しましょう。
お通し 柚子のくりぬき・白海老のこのわた和え・クコの実・三つ葉
お刺身 真鱈の子付け・甘海老・鰤・山椒
焼き物 焼ガニ(新湊産)・カニみそ甲羅焼き
煮物 鰤大根 (氷見産寒鰤・木津大根・ほうれん草)
洋皿 氷見牛のタンシチュー(氷見牛・人参・ブロッコリー・生クリーム)
大鍋 鰤の豆乳しゃぶしゃぶ(氷見鰤・白菜・水菜・しいたけ・豆腐・ポン酢・くずきり・もみじおろし)
揚げ物 真鱈白子の天婦羅(白子・たけのこ・タラの芽)
お食事 カキ御飯・鱈のみそ汁
水物 柚子シャーベット


 どれもおいしかったのですけど、特に私が感動を覚えた料理はどれかと申せば、焼ガニ・鰤の豆乳しゃぶしゃぶ・白海老のこのわた和えでしょうか。
 寒い冬の日に、雪見窓から外の白い景色を見ながら、炭火で焼いたカニを食すのは最高でした。笑顔のすてきな、もてなし役の女性が目の前でカニを焼いてくださり、彼女としばらく会話を交わしているうちに、部屋全体に香ばしいよいにおいが立ち込めてきて、甲羅の中のかに味噌もグラグラ踊りだしてきて、もうそれだけで幸せな気分でした。ゆでカニでは味わえない独特の甘味に思わずうっとり。「あら塩をふって食べると、なお、おいしいですよ」といわれ、素直に塩をふってみて、またうっとり。あら塩によって、カニの甘みが一層引き立てられていました。ふうふういいながら、ほくほくのカニの身を取ることにしばし時間を忘れて没頭してしまった長兵衛でした。いやー、おいしかったですよ、ほんと。炭火のおかげで体もぽかぽかです。冬料理のもてなしの基本は、やはり体が温まるということでしょうね。
 鰤の豆乳しゃぶしゃぶも体が芯から温まるおいしい料理です。豆乳の中で薄く切られた鰤を4・5回泳がせて、ポン酢ともみじおろしで食べます。こうして食べますと、あっさりしていて鰤がいくらでも食べられそうです。白い豆乳が北陸の冬景色のイメージとも、ぴったり合っているようで、なんだか感動してしまいました。これも非常においしかったです。
 そして、料理の一番初めにだされた白海老のこのわた和えは、白海老のむき身をこのわた(海鼠・なまこの内臓)で和えた珍味です。お酒にもぴったりあいそう。それが、柚子の果肉をくりぬいた中に入っているのです。ゆずの香りともあいまって、とても上品で深みのある一品でした。また、黄色いゆず釜の蓋を開けたとき、クコの実の赤と三つ葉の緑とが富山湾の宝石とうたわれる白えびの透明な薄いピンク色のアクセントになり、味や香りのみならず姿にも趣向を感じさせてくれました。このあたりは、老舗料理旅館ならではの本領が発揮されたところでしょう。献立の最初から、客の心をぐっとひきつけてしまう板前さんの演出に敬服です。
  高岡ホテルは、山町筋の土蔵づくりの町並みからすぐ近くです。先にも触れましたが、ホテルの広い庭は、名木ぞろいで知られており、中でも春の訪れを告げる梅の古木や珍しい白い上がり藤の藤棚などは定評のあるところです。季節折々の花の開花を心待ちにしてひとめ花を愛でようと毎年来館するというお客様もあります。また、広い池の中央に浮かぶ島の住人、カルガモの親子のかわいい姿も、
高岡ホテル女将
深田加代さん
高岡ホテルの庭には欠かせぬ風景となっています。毎年5月になるとカルガモが飛来し池で子育てをするのが、ほのぼのとした風物詩ともなっているのです。カルガモの子育ての季節に出される、「水無月弁当」(2500円)は、価格も手ごろで誰にも親しみやすいおいしいお味となっています。また、「氷室懐石」(5000円)も人気のメニュー。親ガモのあとにくっついて泳ぐ子ガモたちのかわいい姿を眺めながらの食事の楽しさは格別です。
住所 〒933-0913 高岡本町3番20号
TEL 0766-21-1603 FAX 0766-21-0155
e-mail takaokahotel@yahoo.co.jp  


  越中高岡もてなし料理は、ここで紹介した高岡ホテルのほかにも、市内のいくつかの店舗で味わうことができます。高岡にお越しの際には、各店舗の心づくしのもてなし料理をぜひともご賞味あれ。
 
当社ホームページ室屋長兵衛に連載の
『古城万華鏡』が 本になります!!
高岡の開祖 前田利長公をめぐる新発掘のエピソード満載
美しいふるさとの写真映像とともに綴る高岡誕生の物語
前田利長が築いた高岡城とは、どのような城であったのか
幻の高岡城の姿が今蘇える
2009年に高岡は開町400年を迎えます。私とともに、高岡が誕生した時代に思いを寄せながら、歴史めぐりをしましょう。 そして、あなたもいっしょに考えてみませんか。
わが町のルーツ 高岡城の姿を。
販売予定価格2100円(税込価格) 
発行所 桂書房 400頁 筆者山本和代子
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