いかの墨煮
 イカをイカ墨で黒く煮た料理。イカに真っ黒の墨が付着しています。
富山には「イカの黒づくり」というイカの塩辛があります。今や富山県の特産品としてのほうが有名ですが、陶智子著『加賀百万石の味文化』には「料理無言抄」(享保14年の頃に加賀藩のお抱えの料理人舟木伝内が書き記した)に「烏賊の黒づくり、能州名産」「黒づくり、越中、魚津、滑川よりも出、能州最上とす。」とあることが紹介されています。富山県人にとっては少し不本意な気もしますが、これによるとイカの黒づくりの総本家は能登地方のようです。
 さて、イカの黒づくりはイカの塩辛にイカ墨を入れるので真っ黒です。黒くテラテラとしたすごみのある光を放っており、これを食べると歯まで黒くなります。なんともいえないコクと風味があって、炊きたての白御飯に乗っけて食べると絶妙です。しかし、食べ親しんだ者でなければ、グロテスクだという印象が強く食べるのに勇気が要るでしょうね。
 長崎県の離島や沖縄では、いかの墨の料理が伝承されています。
 「聞書き長崎の食事」には、「いかのくろみあえ」が紹介されています。「くろまえともいう。小値賀・平戸・大島などの島々では開き祭りに食べる真っ黒な和え物で、食べ物の色としては大変に珍しい。9月ころからとれるみずいか(あおりいか)やもんこいかをひらいて、墨の袋を破らないようにとり出し、口のほうをすみがでないようにくくつて、煮立った湯の中で茹でる。身はさっとゆでて、短冊か輪に切る。すり撥にこしょうと胡麻を入れてすり、味噌・砂糖を加えてさらにする。この中へ茹でた墨袋を入れて黒くつやの出るまですり、それでいかを和える。」1549年に平戸にやってきたフランシスコ・ザビエルが、キリスト教の布教活動の助けとして日本人にイカのくろみあえを伝授したと伝えられているそうです。
 また、沖縄にはイカスミ(イカ墨のお汁)という料理があって、これはイカ、豚肉、ンジャナ(にが菜)をカツオだしのスープとイカの墨で仕立てたものです。この料理も一説によると、琉球にキリスト教を布教しにやってきた宣教師が伝えたとも言われています。ヨーロッパのイカ墨料理は、近年のイタ飯ブームとイカ墨ブームですっかり有名です。「イカ墨パスタ」「イカ墨リゾット」・・・。すっかり現代食の中に溶け込んでおります。当ホームページに寄せられたおたよりの中にも、ヨーロッパのイカ墨料理を報告して下さったものがありますので、ここで紹介いたしましょう。

家族でマドリート゛に住んでいました。
マドリードでバターライスの横にイカの墨煮がのっかっている料理を見た時、富山(私は富山出身です)とスペインどちらが元祖?と言って家族で話したことを思いだしました。娘が大好物でした。スペイン語で カラマーレス コン スー ティント といって、まさに真っ白い炊き立てのご飯にあの黒い墨をかけるのです。しかし味は絶妙、日本人に合うあのイカの味です。
スペイン語では"Calamares con su tinto"です。
直訳で"イカのインク煮 "と私は言っています。墨はインクみたいでしょう?tintoは染める意味を持っています。先に書きましたように熱い白ご飯にこの黒い墨をかけるのです。カレーライスのように。せっかくのご飯を黒くしたくないのが日本人ですが、味はまさに日本人好みです。・・・以下略
長崎市 松澤様

 黒づくりファンの私など、ぜひ一度は食してみたいマドリードの「イカのインク煮」。大航海時代に思いを馳せながら食べてみたいものですね。
 本行寺に伝わる「イカの墨煮」もまた、かつての日本とヨーロッパとの食文化交流の証と言えるのでは。最初は、ただのこてこて郷土料理だなんて思いましたが、よく観察していくとだんだんと「キリシタン料理」の意味が分かってきました。
富山名産黒づくり

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