まとめ
 能登半島七尾市の静かな山寺、本行寺にお伺いして食べてみた隠れキリシタン料理。そのキリシタン度を検証してみましょう。
@ 葡萄酒はいかにもキリシタン。
A もち米タイプの赤米は、東南アジア世界の香り。
B 柿は、ヨーロッパと日本との架け橋、共通語。
C 黒いイカ墨料理は、キリシタン食文化の証し。
D カルカンは薩摩の郷土菓子。カルカンの起源はザビエルさん?
E 伝来したばかりのいもを原料とした「せん」料理は、アメリカ新大陸の夢。
F 大根のお酢和えは、異国情緒あふれるピリ辛エスニックサラダ。
 どうですか。これをキリシタン料理と言わずしてどうしましょう。キリスト教文化をもたらした南蛮人たちの足跡が充分に読み取れます。
 それは、今日の私たちにとっては、けっして豊かな食材を使った料理とは思えません。そこには、白米がありませんでした。七尾は、江戸時代を通して交易で栄えた湊町。米の調達が困難な土地柄ではありません。しかし、能登のキリシタン料理に白米は含まれてはいませんでした。生月島の白米を多いに食べる「カクレキリシタン料理」とは対照的です。何かこだわりを持って白米を使用しなかったようにも思えます。赤米・山芋・さつまいもを利用した料理には、焼畑農業を基盤とした独特の個性があるようです。
 さつまいもから抽出した澱粉「せん」や柿の漬物などは、隠れキリシタンにとってとても貴重な保存食であり栄養源だったのでしょうね。ヒロウズや甘い砂糖を使ったカルカンなどはとても贅沢な料理だったに違いありません。どの料理も噛みごたえがあったことも特筆しておきます。
 不思議に思うことがいくつかありました。
まず、浄土真宗の行事、報恩講と似た要素がいくつかみられるということです。お酢和え・ヒロウズなど料理に一致が見られるのみならず、お堂に集まってお膳で料理をいただくというスタイルは報恩講のそれとまったく同様のものです。
 そして、鹿児島や沖縄や長崎などの九州地方の郷土料理や鹿児島の郷土菓子と似たものが、能登のキリシタン料理の中に見られるということも謎のひとつです。
 「加賀の醤油はなぜ甘い」でも申しましたように、九州と北陸とには、同様に醤油に砂糖を混入した甘い醤油を愛用しているという共通点があります。ともに甘口醤油の一大愛用地です。
 キリシタンと甘口醤油。
「長兵衛よ、そいつはもう止めてくれ。話が突飛すぎて、それこそ醤油ミステリーだ。」と社長には言われるのですが、甘口醤油のルーツがキリシタン文化と日本文化との出会いの中にあるのではないかという思いは決して私の脳裏から離れることはありません。  
今回は「隠れキリシタン料理の旅」にお付き合いいただき有難うございました。
平成16年5月23日
平成16年5月 七尾市にて撮影

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